今回は科目別の試験対策についてお伝え致します。
『中小企業経営・中小企業政策』科目を勉強中の方、今から始める方へ向けて平易に記載しておりますので、学習の指針にしていただければと思います。
※法律用語等を平易な言葉で説明しているため、法律上正しくない表現が含まれている可能性があります。ご了承ください。
一次試験『中小企業経営・中小企業政策』試験概要
試験時間:90分
試験時間としては十分に余裕がある科目です。
知識をベースとして回答させる問題がほとんどですが、問題文をしっかりと読むことで正解を導ける問題も出題されますので制限時間まで十分に時間を費やし、少しでも点数を積み上げましょう。
当日のタイムマネジメントとしては、正解がわかりやすい中小企業政策から回答していく程度で問題無いでしょう
配点・形式:約42問(2点×26問、3点×16問)
設問は例年約42問で、2点配点と3点配点の問題が出題されます。
前半の21問が中小企業経営から出題され、後半21問が中小企業政策範囲から出題され、それぞれ50点ずつの配点です。
4つか5つの選択肢からなる選択式の問題がほとんどで、与えられた文章に関して枝問として複数の出題がある問題も少なくありません。
科目合格率推移
- 2021年度:7.1%
- 2020年度:16.4%
- 2019年度:5.8%
- 2018年度:23.0%
- 2017年度:10.9%
※一次試験合格者は科目合格者としてカウントされていないため、実際に当科目で60点以上取られた方の割合は上記よりも高くなります。
科目合格率としては他科目と比べて低い科目です。
これは内容がほとんど馴染みのない科目であり、学習がなかなか進まない科目であることも起因しているのでは無いでしょうか。
また診断士試験としてはメイン科目では無いため科目合格を狙わずに他の科目で不足点を補う戦略を取る受験生も少なく無いでしょう。
一方、実際の中小企業にとって中小企業政策で学習する内容は非常に重要です。
診断士として経営支援を行う際にはこの知識を補充しながら実務にあたることになりますので、「各政策を実際に利用する企業はどのような企業なのか」を想像しながら学習をすることで知識が定着しやすくなると思います。
中小企業経営・中小企業政策の全体像
この科目は「中小企業経営」と「中小企業政策」に大きく分かれます。
実際の中小企業の実態をデータで確認しながら、その実態を改善するためにどのような政策が取られているのかを学習していきます。
実際には両範囲は非常に関連深い内容ですが、試験対策上はそれぞれの範囲を独立して学習することをお勧めします。
また受験生の多くはこの科目を最後に学習すると思います。
他科目の学習進捗度を確認しながら、どこまで学習をするのか、どれくらいの時間をかけるのかの戦略を立てた上で臨みましょう。
中小企業経営
中小企業経営の範囲は、統計調査やアンケート調査によって中小企業の実態を捉えた「中小企業白書」からの出題が8割程度を占めます。
実際の調査結果を回答させる問題がほとんどで、その知識を使った応用問題はほとんど問われません。
暗記科目であるが故に、学習の仕方を十分に工夫する必要があります。
実際の中小企業白書を購入して全てを学習する必要はありません。テキストに重要論点が絞られていますので、学習する分野も同様に絞っていきましょう。
中小企業政策
中小企業政策の範囲は、中小企業を取り巻く「法律」や「制度」を学習していきます。
中小企業経営の範囲と同様に暗記科目で、基本論点を問う問題がほとんどですが、頻出論点がよりはっきりしています。
後述しますが「中小企業基本法」や「中小企業経営強化法」等は一部名称が変更になることはありますが毎年のように出題されています。
過去5年程度の本試験問題を確認して、頻出論点から優先的に学習していきましょう。
学習の進め方
※以下は足切りを回避しながら、他科目へのマイナス影響を最低限に抑えることを目的とした省力的な学習方法です。
合格点(60点以上)を当然とした学習をされる方は自分なりに追加アレンジする前提で捉えてください。
過去問を確認する
本格的に学習を始める前にまずは過去問を確認しましょう。
初学者にとっては当科目が一体どのような試験であるのかを把握しづらい科目ですので、まずは試験全体像を確認することで試験勉強のイメージをつけていきましょう。
過去問確認で押さえておきたいポイントは以下です。
- 各範囲(経営・政策)で問われている内容はどのようなものか
- 暗記するレベルや量はどの程度か(自身の知識とのギャップ)
→一次試験本番までに勉強できる時間と相談する。
テキストに沿って学習を進める(1周目)
前述の通り中小企業白書や法律の原文から学習する必要はありません。
中小企業白書だけでも500ページ程度あるので、試験勉強としては非効率になってしまいます。
各予備校が出版しているテキストに沿って学習を進めていくのが良いでしょう。
テキストは、過去に出題実績がある論点を中心に重要論点がまとめられていますので、効率的に学習することができます。
テキストの学習と過去問演習を通して全範囲を3周するくらいで十分でしょう。
中小企業経営と政策はどちらから学習しても良いですが、中小企業政策の方が、学習が点数につながりやすいと思います。
試験までに学習できる時間を鑑みながら優先順位をつけましょう。
分野ごとの過去問演習を通して知識を定着させる
前述の通り、試験のタイムマネジメントはほとんど不要の科目ですので制限時間を意識した演習は特別不要です。
知識の定着に本試験問題を活用していきましょう。
本試験の活用の仕方は、両科目ともに過去5年分程度を分野ごとに演習していくやり方が良いと思います。
具体的にはテキストの章ごとに対応する過去問題を解き、その問われ方を把握しながら、解いた後にすぐ解説とテキストで知識をインプットしていきます。
この繰り返しを一つの単位として、テキストの最後まで進めていきましょう。
この方法を取ることで過去5年を通して、どのような問題が出ていて、どのような知識が必要なのかを把握しながら暗記していくことができます。
その後、本試験前に1,2年程度の本試験問題で演習する程度で対策としては問題ないと思います。
学習の留意点
中小企業経営
初学時は全てを暗記しようとしない
暗記する部分が多いため、まずは特徴がある部分や、大まかな傾向を捉えることに努めましょう。
- この10年間で企業数が一貫して増加している業種はない。
- 一貫して減少している業種は「建設業」「製造業」「小売業」含めてたくさんある。
暗記の仕方は工夫する
この科目は暗記する内容が多く、必要な項目をいかに効率良く暗記するかが重要です。
一般的に言われている暗記方法を、当科目へ当てはめた方法を簡単に紹介します。
- ①自身の業務知識と合わせてストーリーで覚える
- ②テキストのまとめ方に囚われず、自分が覚えやすい形でまとめて覚える(テキストが整理している軸と自分が暗記しやすい軸は違うことがある)
- ③知識との接触回数を増やす。(まとまった時間の確保よりも隙間時間の確保)
- 企業数は、中小企業も小規模企業でも小売業が最も多いが、売上高は全体の4位、生産性は下から2番目。
- 開廃業率では廃業率の方が高く、小売業の経営状況は厳しい。
時流の乗った内容は重点的に暗記する
中小企業が課題として捉えていて、かつ社会的に時流に乗った内容は診断士試験として出題される可能性が高いため優先的に学習することが必要です。
中小企業の多くはこれらの課題を実際に抱えていて、診断士実務においてもこの課題解決の支援をすることが少なくたいためです。
受験年度によって内容は変わっていきますが、テキストには重要論点として掲載されています。例えば以下の様な内容です。
- 就業者に占める高齢者や女性の割合
- I T投資額の推移コロナウイルス関連(BCP作成企業数、テレワーク導入割合)
- 社長の高齢化・事業承継に関するデータ
- 労働力の減少に伴う増加する外国人労働者数
中小企業政策
頻出論点を優先的に学習する
前述の通り、中小企業政策は頻出論点がはっきりしており、ほぼ毎年のように出題される内容があります。
このような分野を確実に正解できる状態になることで、早期に足切りを防ぐ状態に持っていくことができます。
学習の方法としては
- まずは過去5年くらい出題されている分野をテキストでチェックした上で、
- テキストの掲載順に学習を進める。
- チェックが無い範囲は法律や政策の概略を捉える程度に留めておき、
- チェックされた範囲が出てきた際は、しっかりと暗記していきましょう。
この頻出分野には法律と政策と両方の分野があります。
法律を覚える際は、その目的や具体的な原文を暗記することを意識しましょう。
テキストに載っている範囲で問題ありませんが、文章で覚えることが難しい場合は演習時にどの部分が問われやすいかを確認しながら覚えていきましょう。
また、法律は複数の法律を比較しながら暗記することが有効です。
下記は、頻出かつ比較して勉強することが重要な法律の例です。
- 中小企業基本法と小規模企業活性化法と小規模基本法
- 中小企業基本法と中小企業憲章
本試験では難易度を上げるために、別の法律の文章の抜粋が選択肢の中に入れられることも少なくなく、不確かな知識では間違うように作られています。
比較しながら暗記することで、そのような問題にも対応ができるようになります。
問われる内容はそれほど多くはないので、頻出される法律を合わせて暗記するようにしましょう。
政策を学習する際は、その目的、スキーム、対象となる事業体を重点的に覚える
政策に関する出題ではこの政策の恩恵を受けられる事業体は何か、恩恵を受けるためにはどのような手続きが必要であるか等が頻出です。
これは中小企業診断士が政策を活用しながら実際に経営支援をする際には、具体的な手続きに関して助言や一部代行をする必要があるためです。
この分野の学習でも重要であることは、それぞれの政策を比較して暗記することです。
そうすることで政策の目的が見えやすくなり、頭の中で知識が整理されていきます。
おすすめは政策一覧が表形式になっているものを用意して、問題演習の際に確認する回数を増やすことが良いでしょう。下記のまとめシートには政策一覧が掲載されていますので参考にしてください。
中小企業診断士1次試験に効率的に合格したい方のためのテキスト – 一発合格まとめシート(Matome-sheet) 一発合格まとめシート(Matome-sheet)
※中小企業経営、中小企業政策の範囲ともに毎年内容が更新されます。最新のテキストを用意するようにしましょう。
論点別学習ポイント
ここからは論点別の学習ポイントと過去問での出題例を紹介します。
中小企業経営
中小企業白書を基にした統計データ
中小企業の企業数・従業員数、売上高・付加価値、労働生産性などの統計データ、付加価値創造への取り組みに対するアンケートデータ等について学ぶ分野です。
500ページ以上ある中小企業白書のデータから過去の出題実績等を元に抜粋した内容がテキストに記載されているため、その内容は全て出題される可能性があります。
とはいえテキストの全ての内容を暗記することは試験対策として効率的ではありませんので、項目に優先度をつけて暗記を行っていきましょう。
企業数、開廃業率、労働生産性、など頻出論点はある程度決まっているので、これら項目に関しては優先度を上げて暗記し、出題された際には確実に得点できるようにしましょう。
当分野では中小企業白書からの出題(小規模企業白書も含む)がほとんどを占めています。
言い方を変えると、経営情報システムや経営法務のような他の暗記科目と違い、未対策の問題が出題される可能性は低く、中小企業経営科目は学習範囲が明確になっている科目と言えます。
そのため、中小企業白書内の暗記する内容を増やしておくことがそのまま得点に直結します。
過去問では以下のように出題されています。
※令和3年度 中小企業経営・政策1次試験問題より抜粋
中小企業政策
中小企業基本法、小規模企業基本法
中小企業政策の基本理念・基本方針に定めている中小企業政策の憲法ともいえる中小企業基本法についての分野です。
その中の小規模企業に関しては更に別の法律である小規模企業基本法なるものが定められており、小規模企業の成長発展に関する基本方針などが掲げられています。
当分野からほぼ毎年2~3題は出題されており、中小企業経営の分野でも出題される可能性がある超重要論点です。
出題される内容はほとんど決まっており、中小企業の範囲・定義に関して、同法の基本理念に関して、いずれかの内容に限られています。
中小企業の範囲というのは、業種ごとに資本金額、従業員数が定量的に定められたものですが
(サービス業は資本金額が5千万円以下、従業員数が100人以下など)
テキストでは分かりやすく表でまとめられています。
この表さえ正確に暗記しておけば対応が可能です。
簡単な基本問題に取り組み出題形式に慣れておき、確実に得点できるようにしておきましょう。
基本理念に関しては、条文の穴埋めで出題されることが多い範囲ですので、条文の内容を正確に暗記することを心掛けましょう。
テキストでも過去の出題実績から重要用語は太字になっていると思いますので、特にテキスト上の太字になっている箇所の用語は正確な暗記が必要です。
過去問では以下のように出題されています。
※令和3年度 中小企業経営・政策1次試験問題より抜粋
様々な支援制度や各種計画
中小企業が発展するための様々な金融支援制度や、それら支援を受けるために作成が必要な基本計画の内容について学ぶ分野です。
非常にたくさんの制度が出てくるので、整理せずに暗記しようと思うとなかなか暗記が進まないのではと思います。
まずは、それぞれの制度が何のための制度(共済制度、融資制度、補助金制度など)なのか、何のための計画なのか(経営革新計画、事業継続力強化計画、農商工等連携事業計画など)を整理することが重要です。
前述の通り一つの制度だけを暗記するのではなく、それらを比較して暗記することで効率的に暗記を行うことができます。
過去問演習を繰り返し、マル経融資制度、退職金共済制度など頻出の論点に関しては特に注力して暗記しておきましょう。
過去問では以下のように出題されています。
※令和2年度 中小企業経営・政策1次試験問題より抜粋
まとめ
中小企業経営・政策科目は試験対策としては全科目の中で最も本試験直前に取組む短期記憶で対応する科目です。
単純に試験対策の暗記と割り切って、統計数値や法規をただ暗記する対応を取る方も多いと思います。
一方で、当科目の内容(補助金・助成金申請など)が診断士の実務としては最も役立つといっても過言ではありません。
単純暗記が苦手だと感じている方においては、診断士資格取得後に当科目で得た知識を活用し、中小企業の社長等に助言をしている姿をイメージしてみると少し学習が進めやすくなるかもしれません。
上述した通り、当科目は足切り回避の対策を取る方が多い科目ですが、出題範囲が最も明確である科目でもあります。
時間を費やして得点源とする戦略をとるのもひとつの作戦です。
他科目との学習進捗、一次試験全体での合格点獲得の戦略に合わせて 学習を進めていきましょう。