今回は科目別の試験対策についてお伝え致します。
『経済学・経済政策』科目を勉強中の方、今から始める方へ向けて平易に記載しておりますので、学習の指針にしていただければと思います。
一次試験『経済学・経済政策』試験概要
試験時間:60分
この科目の本試験では基本用語をそのまま答える問題はほとんど出て来ず、学んだ内容を試験当日の思考力を使って回答する問題がほとんどです。
そのため試験時間のマネジメントが必要になりますが、学習を積み重ねることで60分の試験時間で十分に対応できるようになる科目です。
配点・形式:4点×25問
配点は全て1問4点で、問題数は25問になります。形式は4択もしくは5択の選択肢から正解を選ぶ問題です。
当科目は初日の第1科目目に設定されており、最も緊張した状態での受験となります。
計算するべき問題と、知識をそのまま使用するor応用して答える問題に分かれるため、計算問題は後回しにすることや理解が進んでいる分野を先に解くなどの工夫をして確実に得点を積み上げていきましょう。
科目合格率推移
- 2021年度:21.1%
- 2020年度:23.5%
- 2019年度:25.8%
- 2018年度:26.4%
- 2017年度:23.4%
※一次試験合格者は科目合格者としてカウントされていないため、実際に当科目で60点以上取られた方の割合は上記よりも高くなります。
科目合格率としては他科目と比べて高い科目です。基本論点を理解し、問題演習を適切に積み重ねていけば十分に合格点を狙えます。
経済学・経営政策科目の全体像
概略
この科目は診断士試験の中で一番、試験らしい試験と言えます。
昔ながらの学問を学び、その知識を問う試験のため、大学受験や大学での試験と同じだと捉えていただければ良いでしょう。
経済学の科目では、実際の経済現象を説明する計算式やモデルを学んでいきます。
伝統的な経済学と政策論が試験範囲になっており、データを利活用した最新の経済学等は現時点では範囲外です。
学問であるためたくさんの流派や考え方が存在していますが、試験対策としては限られた範囲を学習するだけで十分です。
関数やグラフが頻出し、経済学自体の初学者には抵抗がある方も少なくありませんが、中学校数学レベルの理解があれば十分に対応ができます。
初めから苦手意識を持たずに勉強を進めていくことも大事な要素でしょう。
ミクロ経済とマクロ経済
試験範囲は大きくミクロ経済とマクロ経済とに大別され、出題構成もおおよそ同程度となります。
ミクロ経済
ミクロ経済では、それぞれの企業や消費者の経済活動はどのような考え方で決まるのか、それを捉えることでその集合体の市場について分析をしていきます。
実際の消費者としての経験から理解がしやすい部分も数多くあるため、学習も進めやすい範囲です。
一方、前述の通り経済活動や現象をモデルとして考えるため、現実と明らかに相違している部分も出てきます。
その際には、このモデルは何を前提にしているのかを捉えながら、現実との違いを理解するようにすることが重要です。
(例)
学問上では企業も消費者も利益が最大になるように行動する前提がある。
現実では考え方もさまざまで、企業や個人が置かれている立場等で判断が大きく変わる。
マクロ経済
マクロ経済では一つの国を単位として分析していきます。(GDPや総消費、国際収支や成長率など)
その目的は、分析を通して国全体の経済活動を向上させ、景気を良くしGDPを向上させることです。
ミクロ経済よりもイメージが湧きづらい範囲ですので、現実で議論されている内容や、実際に行われている政策と絡めて学習を進めることをお勧めします。
学習の進め方
①過去問を確認する
この科目もまずは過去問を確認したほうが良いですが、他の科目よりもその重要性は低いと思います。
その理由は、専門用語や数式が多く、読み取りにくいグラフも頻出するため、未学習時に過去問を確認しても何が問われているか、難易度がどれくらいなのかがわかりづらいためです。
この時点で過去問を確認して押さえておきたいポイントは下記です。
- 経済統計データからの問題が毎年2問程度出題されていて、テキスト知識だけでは解ききれない問題があること
- グラフや関数が、試験の中で数多く出てくること
- 一方、選択肢は文章で記述されているものも多く、理論の理解で解答できる問題も多いこと
②テキストに沿って学習を進める
ほとんどのテキストはミクロ経済から掲載されているので、その順番で学習を進めていきます。
まずは一つ一つのモデルの内容を知り、理解をすることが大事です。
前述の通りですが、すでに提唱されているモデルですので結論があります。その結論を先に知ることで、そのモデルの導出の理解がしやすくなります。
数学に抵抗がない方はこの時点で導出に関しても理解を進めることをお勧めします。
導出を丁寧に追いかけていくことで、後の論点の理解もしやすくなりますし、本試験本番での対応力にも繋がります。
③基本問題集や例題を活用して、各論点での理解を進める
本試験では基本的な論点を問う問題が多く出題されており、基本問題を正解するだけで概ね合格点に達します。
- 各論点をきちんと理解した上で
- 本試験の問題解法プロセスを習得すること
が学習のゴールになります。
上記一つ目の各論点をきちんと理解する上で重要であることは、以下の3つです。
- 各論点、モデルの結果を覚える。具体例と合わせて覚えることで記憶しやすくなる
- 導出を理解する(可能であれば自身でやってみる)
- 例題と基本問題を解くことで、各論点での問題の出題形式に慣れていく
特に経済学の学習では、テキストを読んで内容を理解しても問題が解けるようにはなりません。
手を動かして関数の式やグラフを自力で描いてみる、テキストや解答を見ずに基本問題を解く、これらを繰り返すことが各論点を身に付ける上で非常に重要です。
④過去問演習を進める
上述の「本試験の問題解法プロセス習得すること」が過去問演習の目的です。
本試験では基本的な論点の問題を正解できれば合格点に達することは前述しましたが、その為には理解をした上で、本試験の出題形式に慣れることが必要です。
本試験ではテキストや基本問題集に使われていない難解な言い回しが使用されます。
その全てに触れることは難しいですが、過去問演習を通して、「難しい表現を自身が持っている知識へ変換する力」を養っていきましょう。
過去問演習時に重要なことは、テキストや解説を見ずに自身の頭で解答をすることです。
難解な言い回しや、一見すると初見の関数やグラフが出題された時に、自身の力で読み解き選択肢を絞り込み、正解を導き出すことが必要になります。
過去問演習の最初の頃は、問題の条件を読み解くだけで時間がかかり、解答するだけでも疲労する作業になると思います。
ですが、それを積み重ねていくことが合格点確保への道のりとなりますので根気強く継続していきましょう。
学習の留意点
各論点の理論や定義は理解を中心とした学習を心がける。
改めて記載しますが、本試験では見たことが無い形式の問題が出題されます。
特に
- グラフの切片や傾きが何を意味しているのか、
- 問題文に書かれている現象が起こったときにグラフはどのように動くのか
などは基本的な内容が十分に理解していないと本試験の問題で正答できないことがよくあります。
各論点の結果を覚えることを学習のとっかかりにすることは効率的ですが、その後には基本的な考えを理解していく学習を必ず行いましょう。
経済統計データ問題は捨て問とせず、過去問から対策をする。
毎年、マクロ経済分野では統計データの分野から2,3問出題されます。
前述の通り当科目は全ての問題が4点配点ですので、全て間違えると最大12点を失ってしまいますが、対策を全くしないとその可能性も低くありません。
具体的には、各国の失業率や経常収支等のグラフが掲載されて、該当する国や指標を選ぶ出題形式が多く、基本的には知識を根拠として解答する問題です。
通常、ここの対策は日頃から経済関連の知識をTV、ネット、雑誌等から得られるようにアンテナを高くすることとされています。
これを実際にできれば効果は期待できますが、そもそもとっつきづらい経済関連のニュースをそのほかの勉強と平行することは簡単ではありません。
そこで実用的で一定の再現性がある対策として
- 過去の統計データからの出題を10年分程度、縦割りで実施する
- その答えを覚える
- 出題されたグラフや指標の最新情報だけ押さえておく
- その結果として、どの国のどの指標が、高いのか低いのかを考える根拠を学ぶ
このように通常の勉強の中で対策を盛り込んでしまうことが良いでしょう。
国家資格ですので、重要性が低い指標に関する問題が出題される可能性も低いでしょう。
この対策で少なくともある程度の根拠を持って解答ができ、1,2問は正答できる可能性を高めましょう。
もちろん当日にも頭を働かせて、選んだ解答が過去取り組んだ問題と違和感がないかを確かめましょう。
論点別学習ポイント
ここからは論点別の学習ポイントと過去問での出題例を紹介します。
経済学ではテキストの内容全体から満遍なく出題されます。
これはミクロ経済もマクロ経済も共通していますが、各分野の内容がその他の分野に結びついているためです。
ミクロ経済
企業行動の分析
まずは費用関数に関する論点をきちんと理解することで、経済学の考え方の基礎を養うことが重要です。
平均費用、平均可変費用、限界費用についてはグラフの形と、その関数の意味を合わせて理解しておきましょう。
度々ですが、一度に理解しづらい論点は基礎問題を反復することで理解を深めていきましょう。
3次関数のグラフが出てきますが、費用関数の全てがこの形になるということではなく仮定です。
後付けとして、生産初期(累積生産量が小さいとき)は費用がかかりやすく、徐々に効率的な生産ができるようになること(経験曲線)で生産性が上がり費用がかかりづらくなるということが言えます。
消費者行動の分析
・需要曲線と供給曲線
この分野では製品の価格と需要量、供給量を表す「需要曲線」と「供給曲線」を用いて市場に起こる変化をグラフ上で捉えていきます。
特に重要なポイントを以下に記載します。
・弾力性
所得や価格の変化が需要量に与える影響の度合いを弾力性と言います。
費用関数で用いた微分という考え方ですが、ここでもまずは結果を覚えてしまいグラフの形状との関係を理解していくことが良いでしょう。
特にスルツキー分解は頻出分野であるため、問題演習を通して確実に得点ができるようにしておきましょう。
この分野は本試験でも基本問題と同じレベルが出題されるため、基本問題ができるようになれば得点源にすることが可能です。参考に本試験問題を掲載します。
※令和2年度 経済学・経済政策1次試験問題より抜粋
市場均衡と厚生分析
この分野では需要曲線と供給曲線を用いて、市場で成立する価格と、市場での取引量がどのように決定されるかを学習します。
特に、消費者や企業にとってのメリットを測る指標である「余剰」という概念はこの他の論点にも通ずる考え方ですので、しっかりと内容を理解していきましょう。
難易度が高い問題が出題される範囲なので、その中でも基本問題が出やすい内容に関して紹介していきます。
・余剰分析
生産者が得られる利益を生産者余剰、消費者が得られる余剰を消費者余剰、政府が得られる余剰を政府余剰、これらの合計を社会的総余剰として、ある均衡市場では各余剰がどれだけであるかを分析する手法です。
テキストで掲載されているように、需要曲線と供給曲線が描かれているグラフ上で、各余剰がどの部分に当たるのかを理解することが重要です。
本試験でも同じグラフが出題されますので、基本問題で繰り返し練習しておきましょう。
・ゲーム理論・比較優位
不完全競争の範囲では本試験でも難しい問題が比較的多いですが、このゲーム理論に関しては得点源にできる内容が出題されます。
各参加者が取る行動パターンを覚えておくだけで正解を選ぶことが出来ますし、出題されている形式も理解しやすいものが多いです。
内容の説明は割愛しますが、過去問題と簡単な解説を掲載しておきます。
※令和2年度 経済学・経済政策1次試験問題より抜粋
正解は(ア)です。
太郎さんと花子さんがそれぞれの選択をした場合に得られる利得を一つずつ見ていくだけで正解ができる問題です。
マクロ経済
国民経済計算と物価指数
ここからはマクロ経済分野に入っていきます。この分野はマクロ経済の基礎であるとともに、本試験でも頻出分野です。
内容は簡単ではありませんが、本試験では言葉の意味や公式を覚えておくだけで正解ができる問題が頻出となります。
特に下記点は必ず覚えておきましょう。いずれかは毎年のように出題されています。
- GDPに含まれるもの、含まれないもの
- GDPとGNPの違い、NIとの関係性
- ラスパイレス物価指数とパーシェ物価指数の公式と計算
- 各物価指数が使用されている代表的な経済指数
本試験問題を下記に掲載します。国内総生産が付加価値の合計であることさえ理解しておけば、正解ができる問題です。このような点をしっかりと確保することが合格点への近道です。
※令和3年度 経済学・経済政策1次試験問題より抜粋
IS-LM分析、マンデル・フレミングモデル
マクロ経済の中で最も重要な分野です。毎年必ず出題されますので、基本問題は確実に得点できるまで学習をしていきましょう。
この分野を学ぶ上で重要なことは、理解を重視した学習を心がけながら、公式は直前期に覚えてしまうということです。
文章だけで出題される問題は公式を暗記していると、試験本番で非常に有利になります。
一方、グラフを使用した問題は公式を覚えていなくても、理解が進んでいれば正解出来ます。
両方が毎年のように出題されますので、理解と直前の暗記で得点源にしましょう。
マンデル・フレミングモデルは内容を理解した上で、結果を覚えてしまえば良いでしょう。
出題頻度は高くありませんが、出題された際は平易な内容がほとんどですのでパターン化するだけで得点源に出来ます。
※令和3年度 経済学・経済政策1次試験問題より抜粋
AD-AS分析
AD-AS分析は内容を理解する範囲としては難易度が最も高く、平均点を下げている範囲の一つです。
ここではIS-LM分析の理解を前提に物価と国民所得の動きを分析していきます。
内容を理解した上で、基本問題と過去問で演習し、本試験前には結果を暗記してしまって良いと思います。暗記のポイントは以下です。
・AD曲線は 拡張的or緊縮的な 金融or財政政策をしたときのシフトについて
・AD曲線の傾きの変化ついて
・AS曲線は生産性が変化したときのシフトについて
まとめ
経済学・経済政策科目は診断士試験科目のうち、最も理解が重要な科目と言えます。
理解に時間がかかる分野は結果を先に覚えてしまい、問題演習を優先していきましょう。
また、試験対策としては暗記するだけで正解できる問題も少なくありません。
特に数学に苦手意識を持っており理論の理解に不安を感じている方は、暗記で対応できる問題で得点を落とさないことを心掛けながら学習を進めましょう。