今回は科目別の試験対策についてお伝え致します。「財務・会計」科目の中身について触れているので専門用語も一部出てきますが、初学者の方でもわかりやすいように記載しておりますので、学習の指針にしていただければと思います。
一次試験 「財務・会計」試験概要
■試験時間:60分
「財務・会計」科目は一次試験科目の中で最もタイムマネジメントが必要な科目であるといえます。計算問題が問われることも多く、回答できる問題から取り組む必要があります。時には解けた問題を検算するために、戦略的に解き切らずに未着手の問題を残したまま試験時間を終了する判断も必要でしょう。
■配点・形式:4点×25問
1問の配点の比重が大きいため、試験本番では全ての問題を確認した上で、捨て問を作らずに一つずつ丁寧に取り組みましょう。1つの大問に対して2,3の小問が与えられることもあります。
■科目合格率推移
- 2021年度:22.4%
- 2020年度:10.8%
- 2019年度:16.3%
- 2018年度:7.3%
- 2017年度:25.7
※一次試験の合格者は科目合格者としてカウントされていないため、実際に当科目で60点以上取られた方の割合は上記よりも高くなります。 科目合格率としては他科目と比べて高い科目です。内容をきっちりと理解をした上で演習を繰り返すことで再現性高く合格点を獲得することができる科目です。
財務・会計科目の全体像
- 財務会計とは
科目名称として、財務・会計とひとくくりにされていますが、企業がどのようにお金を調達し、どのように使うか、といったようなお金の流れを表す
「財務(ファイナンス)」
と、企業の財政状況や利益を計算するための方法・技法のことである
「会計(アカウンティング)」
がセットになった科目です。
実際の試験でも前半部分が会計、後半部分が財務からの出題となりその出題比率はおおよそ半々となります。 - 二次試験でも出題される重要科目
当科目は一次試験で学習した内容がダイレクトに二次試験でも問われます。
そのため一次試験の学習段階で二次試験を意識した対策を行うことが有効です。
二次試験でも問われる論点はただ解き方を覚えるのではなく、しっかり理解を深め応用的な問題が出た場合でも対応できるように時間を使って学習を行いましょう。
学習の進め方
- まずは過去問を確認する
診断士試験に関わらず全ての試験で重要なことですが、勉強に取り組む前に本試験を知ることは非常に重要です。特に試験科目が多く、勉強範囲が広い診断士試験において効率的に学習を進めることは最優先に考える必要があります。
過去問をはじめに確認することで、それぞれの論点がどれくらいの深さまで問われているのか、どのような問われ方をされ、求められている知識やスキルはどういったものなのかをまずは知りましょう。
ただし、いきなり過去問を解くことや、何時間もかけて分析するような必要はありません。
自分の今の知識レベルとの乖離を確認し、「これならなんとかなりそうだ」「時間をかけてしっかり取り組む必要があるな」などゴールへの取り組みイメージを固める程度で良いでしょう。
そしてテキストを進めていく中で、既習範囲の過去問を解いてみることで具体的に必要なレベルを把握していきましょう。
一方で簿記2級以上の資格を持っている、職務として経理の仕事に携わっている方は過去問を数問解いてみるのも良いでしょう。 - 問題集を活用しつつ、テキストに沿って学習を進める
学習の順番に関しては一般的なテキストに沿って学習を進めていけば問題ありません。理解が進めやすいようにテキストは構成されているのでそれに従っていきましょう。
そして、当科目においてはテキストに付随した問題集を準備することをお勧めします。
他科目であれば過去問のみでも最低限対応可能ですが、後述する通り、財務・会計はアウトプットが重要な科目となります。
アウトプットの数をこなす、頻度を上げるためにも問題集の準備は必須となります。
学習の手順としては、まずテキストを章ごとに区切って読み内容を理解する。
最初の段階では単語や式の暗記を完璧にする必要ありません。
なんの為に、どういったことが行われているのかという内容理解に重きをおいてテキストを読んでいきましょう。
次に、その章の問題集を解いてみてアウトプットができる程度に理解できているかをチェックします。ここで問題を自力で解ける力がない場合は、チェックしておき復習をするようにしましょう。
問題集の問題が対応できるようであれば、対応した過去問を解いてみます。(テキストの巻末に章ごとの過去問の出題歴が記載されています)
まずは過去問レベルが解けるようになることがゴールです。
一連の流れに慣れてきましたら、二次試験対策として選択肢が無くても正答できる状態を目指しましょう。
このように、章ごとにテキスト内容理解→問題集→過去問といった形で学習を進めることで理解が定着します。
当科目においては、数式がよく出ることもあり内容理解が難しい論点もあります。
なかなか理解が進まない場合に際しては、そのまま飛ばして問題演習に入っていただいて構いません。
色々な出題形式の問題を解いているうちに内容の理解が進むことはよくあります。
テキストの内容が分からないと頭を悩ますことに時間を使うよりも、問題を1問でも解くことに時間を使っていきましょう。
学習を進める上での留意点
- アウトプット中心の対策をする
財務・会計科目では数式や専門用語が出てくることもあり、学習の初期は理解することがそもそも難しく感じたり、理解したつもりでもいざ問題を解こうとすると解けないといったことがよく起こります。
この状況から抜け出すには例題や基本問題を自分の手を動かして解くことが必要です。
問題を解くことで内容の理解が進み、数式の意味を捉えることができるようになります。
またその時点では本質的な意味は分からないが、この手の問題の解き方は分かる状態になることで学習を進めることができます。
理解ができない分野は飛ばしてまた戻ってくるくらいで構いません。
改めて学習した時には理解ができるといったことは、この科目でもよくあります。
特に計算問題が出題されるCVP分析やNPV法などは先述の通りに、練習問題→過去問を心がけてアウトプット中心の学習を進めていきましょう。
- 超重要論点は早期に時間をかけて学習に取り組む
①経営分析、②CVP分析(損益分岐点分析)、③意思決定会計(正味現在価値(NPV)法)の3つの分野に関しては二次試験でも最頻出な超重要論点となります。
これらの論点に関しては例題や基本問題でアウトプットを中心に取り組み、基礎を固めることで内容を理解することを重要視すると良いでしょう。
先述の通りCVP分析と意思決定会計に関しては必ず計算問題が出題されます。
これらの計算問題への対応は公式を覚えるのではなく、その公式の意味を理解した上で公式を使えるようになることが必要です。
2020年、2021年の二次試験でこれらの論点での応用問題が出題され、対応ができなかった受験生が多くいました。
難しい問題への対応方法は別の記事で記載しますが、学習内容をきちんと理解していれば対応は十分に可能でした。
二次試験ではこれらの応用問題で少しでも部分点を積み上げる受験生が合格ラインを越えるように試験が作られています。
内容の理解には十分な問題演習が必要ですので、これらの論点に関しては学習を十分に重ねて、二次試験を見据えた練習を早期に取り組みましょう。
- 会計分野の会計規則に関する論点は優先度を低くする
会計分野の会計規則に関する論点に関しては優先度を下げて最後に取組むことをお勧めします。
理由は、これらの論点は初学者にとっては理解しがたい論点が多く、躓いてしまうことで先の学習が進まないこと、また試験では会計士レベルの難しい内容が問われることもあり、努力が成果に繋がりにくい性質をもつからです。
二次試験でも出題されることはほとんどありませんので、余裕がなければテキストを読み流す程度で構わないでしょう。
重要論点別学習ポイント
ここからは重要論点に絞って、論点別の学習ポイントを紹介します。
損益計算書はProfit and Loss Statementの頭文字をとってP/Lと呼ばれます。P/Lとは、企業が毎年どれぐらいの収益を生み出し、そのためにどれぐらいの費用が発生し、その結果どれだけの利益が上がったかをまとめた表です。
貸借対照表とはバランスシート(Balance Sheet)とも呼ばれ、ある時点で企業がどれだけの資産を持っていて、そのためのお金をどうやって調達したのかというストックの状態を示すものです。
B/Sは大きく分けて、資産、負債、純資産の3つの項目から成り立ちます。これらの論点が直接問題として出題されることはほとんどありませんが、損益計算書と貸借対照表は最も基礎となる財務諸表ですので、内容をきちんと理解しておく必要があります。
先述の超重要論点である経営分析は、この貸借対照表と損益計算書の数値を読み取り、企業の経営状態を表している経営数値を計算し、診断士として指摘、助言を行うといった問題が出題されます。
二次試験の出題イメージを簡単に以下に示します。
損益計算書と貸借対照表が与えられ、
損益計算書よりA社の売上高を読み取り(例:100億円)
貸借対照表よりA社の棚卸資産を読み取ることで(例:200億円)
棚卸資産回転率(売上高/棚卸資産)を計算すると
棚卸資産回転率=100/200=0.5(回)となり、
売上高の二倍も過剰に在庫を抱えた危険な状態である。
といったように分析を行い、その原因と対応策を助言するといった形です。損益計算書、貸借対照表に関してはそれぞれの項目名がどういった意味をもっているのか理解を深めておきましょう。
経営分析とは財務諸表の数値を用いて計算・分析し、企業の収益性や支払い能力などを判定する技法となります。先に示した通り、この分野は一次試験・二次試験で毎年出題されていますので理解を深め、確実に得点ができるようにしておきましょう。
勉強方法は財務指標の公式暗記と練習問題でアウトプットを繰り返すことです。
その全てが割り算で計算されますので、分母と分子で使用されている項目の意味を捉え、財務指標の意味を理解するようにしましょう。
以下に一次試験の設問例を記載します。
損益計算書と貸借対照表が与えられ、財務指標を計算するといった問題です。
それぞれの財務指標の公式を把握しておくだけで簡単に正答を導くことができ、8点を確保することができます。
※令和3年度 財務・会計1次試験問題より抜粋
解答
固定長期適合率(%) = 固定資産 / (自己資本+固定負債) ×100(%)
= 110,000 / (66,000 + 34,000) ×100(%)
= 110(%)
インタレスト・カバレッジ・レシオ = (営業利益+営業外収益) / 金融費用
= (10,000 + 4,000) / 1,000
= 14(倍)
簿記とは先に説明したB/S、P/Lを作成するために日々のお金の流れ(取引)を記録するルールの事で、一次試験ではほぼ毎年のように出題される頻出論点です。
学習のポイントとしては、頻出となる勘定科目の名前と意味を覚え、簡単な仕訳の流れは理解にとどめ、あまり深入りしないことです。
元々簿記の資格を取得している方であれば得点源とすべきですが、かなり細かい知識を問われる場合もあるので、時間をかけすぎず、基本的な問題を落とさないようにしましょう。
また、この論点を学習する際に減価償却費という概念については理解を深めておきましょう。
減価償却費とは、実際には現金は出ていかないが固定資産の価値が減少していくものを費用として計上するものとなります。
(例:10万円の機械が10年後に使えなくなるとした場合、毎年1万円ずつ機械の価値が減少するので毎年1万円を費用として計上する)
後述する意思決定会計でも当然に使用する内容ですので、意味をきちんと理解した上で計算ができるようにしておきましょう。
例に挙げる過去問は以下です。
頻出である売上値引、売上割引、売上割戻という勘定科目の意味を押さえていれば解答可能となります。
※令和3年度 財務・会計1次試験問題より抜粋
次は頻出論点のCVP分析について、概要から記載致します。
損益分岐点とは事業が赤字と黒字に分かれる分岐点のことを言います。
損益分岐点分析とは利益、販売数量、コストの関係について分析を行うことにより、決まった利益を出すためにはどれだけの販売数量が必要なのか、またコストをどれだけに抑えなければならないのかを決定することとなります。
損益分岐点分析は、コスト(Cost)、数量(Volume)、利益(Profit)の頭文字を取って、CVP分析とも呼ばれます。
損益分岐点分析で用いる基本的な式は下記になります。
売上から、費用を除くと利益になるということを改めて表現しているだけです。
売上高 – 変動費 – 固定費 = 利益
文字式で表すと
S – VC – FC = P ・・・①
変動費は営業量(売上高)に比例するため、その変動比率(変動費/売上高)をαとすると、VC=αSと表すことができ、
式を変形すると
S(1-α) – FC = P ・・・②
と表すことができます。
この①式と②式を理解した上で覚えておけば、ほとんどの問題で対応が可能となります。
まずは基本問題でアウトプットを重ねることで、公式の意味を理解し、問題を解けるように練習していきましょう。
過去問では以下のような形で出題されています。
※令和3年度 財務・会計1次試験問題より抜粋
解法Ⅰ
損益分岐点売上高 = 固定費 / (1-変動比率)
= 1,200 / (1-(960/2400)) ※変動比率 = 変動費 / 売上高
= 2,000(万円)
上記計算式を覚えておき、回答することも可能ですが、先ほど示した②式を活用して簡単に回答することも可能です。
解法Ⅱ
まずは変動比率を求めます。
変動比率α = 変動費 / 売上高 = 960 /2400 = 0.4
損益分岐点売上高とは利益が0になる売上高となるため、
①式において、P=0、α=0.4、与えられた固定費を代入すると
S(1 – 0.4) – 1200 = 0
これを解いて、
S = 2000
と回答を導くことができます。
テキストを読んでいるとたくさんの数式、公式が出てきてどこまで覚えないといけないのかと不安に思うことがあると思います。
ですが、基本的には上記に示した①、②式さえ覚えておけば(理解しておけば)応用問題にも全て対応可能です。
それ以外の公式に関しては暗記するのではなく、導出の過程を理解しておき、自身で導き出せるようにしておくことが安定して得点するためには重要です。
また先述の通り、CVP分析に関しては二次試験でも頻出される超重要論点です。
二次試験では応用問題が問われることが多く、公式の暗記だけでは対応できない問題が出題されます。
内容理解を深めて、基礎を固めることで応用問題にも対応ができるようになり診断士試験合格に繋がります。
診断実務でそのまま活かせる分野でもありますので、しっかりと時間をかけて学習を進めていきましょう。
意思決定会計とは新しい設備導入や取り替えの投資を行う際に、その投資に必要なお金とその投資から得られるお金を試算し、定量的に投資の評価を行い、意思決定を行うために用いられる会計のことを言います。
投資判断の評価方法にも複数の種類がありますが、診断士試験に置いて最も重要であるのが正味現在価値法(NPV法)と呼ばれるものです。
このNPV法を用いた計算問題は一次試験のみならず二次試験でも超頻出論点となりますので、内容を理解した上で、過去問や練習問題を使いながらしっかりと解法を学んでいきましょう。
この論点は複雑な数式がたくさん出てくるために苦手とする方が多いですが、診断士試験対策上、必ず理解し覚えておかなければいけないような数式は以下の2つです。
FCF = 営業利益(1-税率) + 減価償却費 – 運転資本の増減 – 投資額
N年間にわたる投資のNPV = -投資額 + FCF × n年目の年金現価係数
過去問や練習問題を解く際には複雑な数式を使うわけでもなく、上記の公式を問題に合わせて使用することで解答が可能です。
出題されるパターンもそれほど多くないので問題を繰り返し解くことで、解法パターンを定着させることが重要です。
過去問では以下のような形で出題されています。
上記式を覚えておき、減価償却費、営業利益の計算を行うことができれば解答可能となります。
※平成29年度 財務・会計1次試験問題より抜粋
CF計算書はB/S、P/Lと合わせた財務3表といわれる財務諸表です。
1事業年度間のお金の流れを示す財務諸表となります。
こちらの論点も二次試験でも出題されることがある重要論点となります。
二次試験では与えられた情報からCF計算書を作成するような問題が出題されていますが、一次試験では各項目がキャッシュにプラスに働くのかマイナスに働くのかといった基本的な出題が多くなっています。
二次試験を踏まえた学習でいうとB/S、P/Lの情報からCF計算書を作成できるレベルまで学習を進めておくことは必須となります。
マニュアル的に対応できるものですので、きちんと手順さえ覚え、作成までの流れを何度か行えば身に付けることができると思います。
過去問では以下のように出題されています。
それぞれの項目がキャッシュに対してプラス、マイナスどちらに働くかを覚えていれば対応可能です。
CF計算書に関しては基本的な知識を問う問題が多いため、確実に得点できるようにしておきましょう。
※令和3年度 財務・会計1次試験問題より抜粋
製品を製造するためにかかった費用を製造原価といい、製造活動の記録の為には原価の計算が必要となります。
この原価を正確に計算するための計算手続きを原価計算といい、一次試験では頻出の論点となります。
用語の意味を問う問題(この費用は直接労務費に含まれますか?など)も出題されてはいますが、原価計算の論点では簡単な計算問題として出題されることがほとんどです。
解法としては下書きでボックス図を描いて情報を整理し、計算していくことが有効です。
過去問では以下のような形で出題されています。
※平成29年度 財務・会計1次試験問題より抜粋
今回は試験の概要と重要論点に絞って学習ポイントを紹介いたしました。
財務・会計の学習範囲では計算問題が問われることも多く、苦手に感じる方も多いと思います。
ですが、学習のポイントさえつかめれば、後は中学数学レベルの知識があれば対応可能なものとなります。
苦手意識をもたず、アウトプット中心の学習を進めて理解を深めていきましょう。